「しんぶん赤旗」2003.05.15〜17

 侵された通信の秘密

 ──創価大事件の背景

 異様な法廷
 創価学会系弁護士ずらり


 全員有罪で決着したはずの事件が再び燃え始めました(一面所報)。創価大グループによる携帯電話通話記録盗み出しは元学会員らの告発で、対立団体にたいする組織的犯行の疑いに発展してきました。事件の背後に隠されてきたものとは…。

 異様な光景でした。昨年十一月五日、東京地裁四一九号法廷。被告席には創価大の学生課副課長と剣道部監督(元警視庁巡査部長)、同大学出身でドコモシステムズの嘉村英二社員(以下、肩書は事件当時)。監督の女友達の異性関係を探るため、共謀して女性の通話記録を不正入手した、という事件でした。

 “浮気調査”で

 通信の秘密侵害という重大な事件とはいえ、いわば“浮気調査”という単純な動機のこの事件に、創価学会が異様な対応を示しました。

 その一つは、こんな裁判の傍聴に学会関係者が詰めかけたこと。抽選で傍聴券を手に入れた彼らは、開廷するや真剣にメモをとり始めました。手にしているのは同じ大学ノート。

 もう一つは十一人もの大弁護団。しかも創価学会副会長である福島啓充、松村光晃、築地伸之氏ら全員が学会系弁護士。創価学会あげての対策という感のある布陣でした。

 ところが、被告も弁護団も、犯罪事実については全く争わない。ひたすら「反省している」「私的で一過性の事件だ」と繰り返しました。

 2時間で判決

 事件をこれ以上拡大させない。その意図が露骨に見える法廷戦術。それは逆に「何かを隠している」という疑いを深めることにもなりました。

 起訴状朗読から論告求刑、即日の判決言い渡しまでわずか二時間余り。全員有罪(執行猶予つき)が決まると、被告と傍聴者が歩み寄り、手を取り合い、“感涙”の場面も。そこには隠しようのない“安ど感”すら漂っていました。

 事件発覚後ドコモシステムズを解職された嘉村被告はすでに再就職先が決まっていました。弁護団のあっせんです。

 そこまでして、そして三人の有罪を盾にして守らなければならなかったもの。その一端が今回の元学会員らの告発で水面に姿を見せ始めました。――“浮気調査”の不正は余罪、本体はより組織的で根の深い犯罪ではないかという疑惑です。

 告発状は指摘します。

 「本件は、たんに電気通信事業法等に違反するだけでなく、本質的には、憲法の保障する信教の自由、通信の秘密を侵害する悪質な犯罪である」


 教唆・共謀者
 脱会者、敵対者を追跡


 告発人の二人が、創価大グループの携帯電話通話記録盗み出し事件を捜査中の警察から「あなたの記録も調べられている」と知らされたのは昨年九月。「心当たりは?」、刑事の問いに「大いにある」と答えました。

 知り得ない情報

 告発人の佐藤せい子さんは、創価学会が「撃滅」の対象にする日蓮正宗の信徒団体・妙観講の副講頭。学会批判の記事を載せている月刊誌『暁鐘』編集長でもあります。「身辺を探られている」という体験を何回もしています。当事者以外は知り得ない電話の内容が学会系文書に載るというような例もありました。

 もう一人のAさんは学会退会後「一緒には住めない」という夫と離婚。彼女が経営する学習塾の父母の間に「Aは精神病」といううわさが流されました。学会男子部員が自宅に侵入しようとしたり、買い物先で「先生(池田大作名誉会長)を信じないのか」とどなられたことも。あるジャーナリストの取材を受けると、学会外郭組織の幹部職員である前夫から「ブラックジャーナリストにかかわるな」と電話。前夫がなぜそんな情報を知っているのか、「ぞっとした」といいます。

 『脱講闘争マニュアル』という学会内部文書があります。脱会者(死亡しておればその家族)のカードを作り、「原本は地区教宣部長が保管し、コピーを県に提出」すること。転居すれば「移転先の住所を確認」することなどと書かれています。「教宣部」とは、脱会者や敵対者の動静調査を専門にする部署。告発人の二人は、その主要ターゲットの立場にあるのです。

 創価大グループ

 ところで―。実行犯として告発されたドコモシステムズの嘉村社員は二人の通話記録を盗み出すことはできても、二人の存在を知る立場にはありません。彼に二人の名前を教えたのは誰なのか。

 そこで浮上するのが昨年、別件の通話記録盗み出し事件で有罪になった創価大グループ。このとき、嘉村被告に犯行を指示したのは創価大学生課副課長でした。創価学会全国副青年部長という要職にある同副課長のもう一つの肩書。情報収集機関「教宣部」(前出)メンバーという肩書です。

 告発状は「嘉村に本件の実行をそそのかして共謀した人物が(同副課長ら)であることの蓋然性(確実性)はきわめて高い」としつつ、仮に別人物だったとしても「学会関係者の範囲内に属することは疑いがない」と述べています。

 事件を解くキーワード、それは「創価学会」です。


 不可解な捜査
 「調書」はどこへ?


NTTドコモ情報システム事務所があるビル。1階出入り口は厳重なチェック体制が敷かれています=東京・江東区

 自分の通信の秘密が侵されたと知ったとき─

 「言葉が出なかった。電話を手にするのも怖かった」と佐藤せい子さん。もう一人の女性Aさんは「娘のおびえが激しく、しばらくタクシーで通学させた」と言います。

 ドコモシステムズの嘉村英二社員や創価大の副学生課長らが別件の通話記録盗み出しで逮捕されたことは、新聞や週刊誌で知っていました。

 警察はそれを確認したうえで「あなたの記録も調べられている」と通告。Aさんは副課長の名前も聞かされています。彼女の記録を盗まれたのは(昨年)三月七日で、同日から約二か月前までの記録がそれでわかることも警察で聞きました。

 Aさん親子はそれぞれ、深川署で事情聴取に応じました。Aさんは問われるままに、創価学会入退会や結婚と離婚のいきさつから学会による仕打ちまで克明に説明。四時間余の調べの後、続きは明日A宅で、となりました。

 様子が急変

 翌日、刑事の様子が急変していました。「状況が変わった」などとし、前日の調書に押印させ、世間話だけで引き揚げました。「調書はほぼ私の言った通りにまとめられていた」と言います。

 佐藤さんも同じ。前日の電話では「捜査に協力してくれるか」と熱心だったのに、深川署では「刑事事件にならない」。佐藤さんがアクセスされたのは料金システムではなく電話の持ち主などを調べる顧客システムで、これは犯罪にならないという理由でした。

 しかしNTTドコモ広報部の説明でも、両システムは互いに独立した仕組み。取り違える可能性はまずありえません。

 警察はその後も、Aさんに創価大卒業名簿など資料提供の協力を求めています。佐藤さんやAさん以外にも多数のデータが引き出されているとも言われています。にもかかわらず、立件したのは創価大剣道部長の“浮気調査”にかかわる事件だけ。

 本当の解決を

 それにしても−−

 「私と娘のあの詳細な調書はどうなったのだろう」。Aさんの疑問は深まるばかりです。

 佐藤さんは言います。

 「宗教上の感情からではない。国民として、こんな人権侵害を許すことはできない」

 そしてAさん。

 「告発人になればどんな仕打ちを受けるか。恐ろしく、ちゅうちょもした。でも泣き寝入りばかりでは本当の解決はできないと思ったのです」


 「しんぶん赤旗」2003.05.15

 創価大グループを告発 通話記録盗まれた元学会員ら

 携帯電話の通話記録盗み出しで有罪になった創価大グループの一員が、それ以外にも対立団体幹部らの通話記録を盗んでいたとして、被害者で元創価学会員の女性ら二人が十四日、東京地検に告発しました。

 告発したのは東京在住の佐藤せい子さんとAさん。告発されたのはNTTドコモの子会社ドコモシステムズの嘉村英二元社員と氏名不詳の創価学会関係者。告発人と同代理人の松井繁明弁護士らが記者会見して明らかにしました。

 告発状によると、嘉村元社員は昨年三月ごろ、東京・江東区のNTTドコモ情報システム部の料金明細システムを不正に操作して佐藤さんらの携帯電話三台の通話日時・時間、通話先などのデータを入手。これが電気通信事業法違反(通信の秘密侵害)と窃盗に当たる、としています。

 佐藤さんは日蓮正宗の信徒団体で創価学会批判をしている妙観講の副講頭。Aさんは学会外郭組織の幹部職員の夫と離婚後、いやがらせを受けています。

 告発状はこうした背景にふれ、「告発人らの反創価学会活動を嫌悪し(その)交友ないし活動関係に関する情報を把握するため」の犯行であり「本件をそそのかし共謀しうる人物」の存在を指摘しています。

 事件発覚のきっかけは創価大グループの別件の事件。同大学学生課副課長(当時)が後輩の嘉村元社員に指示して同大剣道部監督の女性友達の通話記録を盗み出したもので、三人とも有罪が確定しています。

 その捜査段階で警察が佐藤さんらに「あなたの通話記録もアクセスされている」と告げて、Aさんの長女を含む三人から事情聴取し、Aさん親子の調書も作りました。ところがその後、警察は調べを中断。告発状は「何かの圧力が加わり、捜査方針が急変したとみるのが、最も合理的な推測であろう」と指摘しています。


創価学会問題メモ